『LOVE YOU FOREVER』は問題作か?

2019年1月23日水曜日

絵本 子育て 幼児

こんばんは。墨田区の保育士、たなこうです!

今日は、一冊の絵本を紹介したいと思います。



Robert Munschさんの「LOVE YOU FOREVER」という絵本です。
アメリカでは、1200万部以上のロングセラーとなっているとか。
日本でも翻訳されて、出版されています。

それが以下の2冊です。


乃木りか訳 『ラヴ・ユー・フォーエバー』 岩崎書店 1997年


細谷亮太 『かしの木の子もりうた』 岩崎書店 2014年


「かしの木…」の方は、翻訳というよりも、翻案になります。
原作にあった毒素のようなものを、きれいに取り除いて、上品にした感じ。
どちらかというと、「ラヴ・ユー…」の方が原作に近いです。毒々しさが残っています(笑)。

ちょっと見比べてみましょう。


まずは、本作の代表的な名シーンである「子守唄」のシーンから。

最初は、「ラヴ・ユー…」から。

次は、「かしの木…」ですね。

どちらかというと、「かしの木…」は水彩画のもたらす印象も含め、情感たっぷりにお届けするのに対して、「ラヴ・ユー…」の方は(宇宙のせいかもしれませんが)神秘的・幻想的な雰囲気があります。


同じシーンが2冊の絵本でどのように表現されているか、比較を続けてみましょう。

次は、2歳になった子どもが、いたずらだらけで手が追えず、お母さんが頭を抱えてしまう、というシーンです。
同じ心境になった方も多いと思います(笑)。

ちなみに原作では、次のような英文になっています。
これ見ると、「ラヴ・ユー…」が原文に忠実に翻訳していることがよくわかります。
The baby grew. He grew and he grew and he grew. He grew until he was two years old, and he ran all around the house. He pulled all the books off the shelves. He pulled all the food out of the refrigerator and he took his mother's watch and flushed it down the toilet. Sometimes his mother would say,"This kid is driving me CRAZY!”


「かしの木…」の坊やは、トイレにお母さんの時計を流したりしません。
お母さんも「気が狂いそう!」なんて、きわどい単語は口にしません。


次は、9歳です。
クリックすると画像が大きくなります。スキャンじゃなくて撮影したものなので、いろいろとご容赦ください。


そして少年は、ティーンエイジャーに育ちます。
「ラヴ・ユー…」の子は、ちょっとやりすぎな気もしますね。髪型なんか、完全にクラウス・ノミだし…。
一方、「かしの木…」の方は、まだまだ可愛げがあります。抱っこしてもおかしくありません。どちらを抱っこしたいかと尋ねられたら、10人中10人が「かしの木…」の少年を選ぶと思います。

いちおう、原作のティーンエイジャーの画像を紹介します。
どちらかというと、「かしの木…」に近いですね。「ラヴ・ユー…」ほどの爆発力はありません。日本、すごい。


で、この作品のどこが問題作か、ってことですが、2歳の坊やを見つめるお母さんの表情に注目ください。

ここの文章は、こうなっています。
But at night time, when that two-year-old was quiet, she opened the door to his room, crawled across the floor, looked up over the side of his bed; and if he was really asleep she picked him up and rocked him back and forth, back and forth, back and forth.
While she rocked him she sang:

I'll love you forever,
I'll like you for always,
As long as I'm living
my baby you'll be.
超訳すれば、
夜も更けた丑三つ時、2歳の男の子が寝静まった夜、彼女は男の子の部屋へと通じるドアをそっと開けると、すぅっと這うようにして枕元へと近づき、男の子が眠っているかどうかを確かめました。そして、おもむろに腕に抱えると、ゆらりゆらりと身体を揺らし始めました。
その唇からは唄が漏れ出します。

”おまえを愛している。
いつまでも。いつどんなときも。
私が存在するかぎり、
おまえはわたしのかわいい赤ちゃんなのだから。
(多少、意訳が過ぎたことをお詫びいたします)


やがて、少年は大人になり、家を出て行きます。
息子は、お母さんと離れ、隣町に住むようになります。

…って、お母さん、夜中に車に乗ってどこ行くの?

って、ハシゴ?
ハシゴなんか、なにに使うのさ?

え?

ええええ! ちょいとお母さん!!
抱っこしてる!?
窓にハシゴ!!!


このシーンばかりは、やはりセンセーショナルらしく、いろんな人に見せても似たような反応が返ってきます。
「怖い」
「ストーカーじゃん」
あまりにも怖いと思ったのか、「かしの木…」では想像の世界のできごとにしてしまうくらいです(笑)。

でも、読み終えてから数日が経つと、あれくらいの描写で逆に良かったんじゃないかと思うようになりました。
「LOVE YOU FOREVER」の主題は、繰り返しお母さんによって口ずさまれる子守唄に集約されています。
あなたを愛している。
いつまでも。いつどんなときも。
わたしにとっては、いつまでも
あなたは、わたしのかわいい赤ちゃん。
子育ては、苦難の連続であることは、みなさんはすでにご承知のことでしょう。
新生児の眠れない夜。2歳からのイヤイヤ期。成長とともに自我も強くなり、思春期イコール反抗期を迎えます。
子どもに対して怒り狂ったり、嫌な気分になったり、涙をこぼすことすら少なくなかったはずです。
でも、ふと思い返せば、やっぱり「大切なわたしの赤ちゃん」なんだと気づくことがある。

「LOVE YOU FOREVER」は、そんな親の気持ちを描いた絵本です。
だから、夜な夜なベッドに這い寄る母親もいるし、窓にハシゴをかけてまで部屋に不法侵入する母親も存在するのです。
(本当はダメですよ)


本書は、母親に「聖人君子であれ」「怒るな」とは決して言っていません。
子どものいたずらに「気が狂いそう!」と叫んだり、「動物園に売っ払ってしまいたい!」と過激なセリフを母親に言わせたりするくらいです。
人間なんだから、怒るのは当然なんです。
でも、冷静になったあと、心の中でもいいので、そっと我が子を抱っこして「Love you forever」を唄う、そんな気持ちを大切にしてほしいと言っています。
決して、子どもへの怒りだけに支配されて、大切なものを見失ったりしないように。
それは、自身が子どもを二度も失った、著者・ロバート・マンチさんからの切実な祈りでもあるのでしょう。(マンチさんの詳しいエピソードが、ハフィントンポストで紹介されています)


最後に、本書に興味を持つきっかけになった絵を1枚ご紹介して終わりにしたいと思います。
こちらは、原書「LOVE YOU FOREVER」の表紙にもなっている絵です。
子どものいたずらで惨憺たる状態のバスルーム。
足の踏み場もないくらいにモノが散乱し、あたり一面が水びたしになるのは、子どもを持つ親にとっては「よくあること」です(笑)。

でも、子どもの表情がいいじゃないですか。
きっと時間が経つのを忘れるくらい、とっても楽しかったんだろうな〜っていうことがよくわかります。

こんな子どもの笑顔を大切にしていきたいと思いました。


では、また!!